皆さん、こんにちは!
日本語日本文学科4年生の文子です。
突然ですが、国語の教科書に載っている小説や説明文の中で、皆さんの印象に強く残っている作品は何ですか?私は、小説なら新美南吉の「ごんぎつね」、説明文なら山崎正和の「水の東西」です。皆さんにもそれぞれ思い出深い作品があるはずです。
なぜ、大人になった今でも小学校や中学校で習った国語教科書の作品を覚えているのでしょうか。今日は、国語教科書のヒミツとともにその疑問について私なりに解明していきます!
12月8日に「国語教科書のできるまで 誰もが必ず使うのに、案外知られていない教科書にまつわるあれこれ」という講演が武庫川女子大学で開かれました。
講演を聞きながら小学生や中学生の当時を思い出して懐かしくなりつつも、タイトル通り初めて知ったことがたくさんありました!(*^ ^*)
◆国内シェア6割!!みんな知ってる光村図書出版株式会社!
光村図書出版株式会社の国語教科書で学んだきたという人が大半なのではないでしょうか。小学校、中学校の国語教科書において、全国の6割を占めるシェアを誇る大手出版会社です。
その光村図書のトップ、執行役員編集本部第一編集長の山本智子さんが講師として来てくださいました。
光村図書は国語教科書で有名ですが、他にも書道や美術、社会科、英語、道徳など様々な教科書を出版しています。
また、デジタル教科書や弱視の子どもために文字を大きめに作られた拡大図書、一般書など幅広く手掛けています。
光村図書から一般書が出版されている事をこの講演で初めて知りました。
例えば、光村図書厳選作品集「光村ライブラリー」があります。「あの頃学んだ作品を読みたい!」と言う保護者の声で生まれました。光村図書書き下ろしの幻の作品なども載っているので、懐かしさでいっぱいになること間違いなしです!!
その他、中国の会社と協力して、中国人に向けた日本語の教科書なども作っています。
◆一般書と教科書って何が違うの?
では、光村図書はどのように国語教科書を作っているのでしょうか。
そもそも、一般書と教科書は作り方から大きく異なります。
一般書は自分の会社で自由に作り、自由に価格を決め、販売します。
一方、教科書には教科書検定というものが存在します。
教科書として販売するためには、文部科学省が行っている約4年に一度の教科書検定をクリアする必要があります。教科書検定をクリアできなければ、教科書として販売する事はできません。そのため、教科書は4年に一度のサイクルで新しく作られていきます。
また、教科書の価格も一般書と異なり、文部科学省で決めます。
ちなみに、光村図書の国語教科書の最安値は、419円(小学校)、800円(中学校)です。
あれだけの内容量があって、こんなに安いなんて!!周りからは驚きの声が上がりました。もちろん私もその一人です(笑)
◆教科書の教科書~学習指導要領~
教科書を作る上で最も重要なのが、学習指導要領の読み込みです。
学習指導要領は、教師をはじめとする様々な教育機関にどのような教育をすればよいか、国が教育の方向性を伝える冊子です。約10年に一度改訂され、最新の教育を届けます。
国語教科書を作る時も、学習指導要領は大切な指針となります。未来ある子どもたちを育むため、しっかりと学習指導要領を読み込み、国が伝えたいことを理解していくのです。
近年の教育では、何を学ぶかだけでなく、
・どのように学ぶか
・何ができるようになるか
など、「学んだことをどう生かしていくのか」という点を重要なテーマとして取り上げています。
ここの読み込みに失敗すると教科書として成立しません。責任の重い作業ですね・・・!
◆教科書が子どもの手に届くまで
先ほども言いましたが、一冊の教科書ができるまでに4年もかかります。
その4年間の中でも、1、2年目は特に重要な時期になります。学習指導要領の読み込みだけでなく、教育の方向性に合った国語教科書の方向性を決め、編集作業も行わなければならないからです。1、2年目にする主な作業の流れを①~④にまとめてみました。
①基本方針の策定(編集会議)
国語教科書の方向性を決めます。
講師の山本さんや作品の作者、小学校・中学校の先生、大学の教授など、様々な人が参加して、多角的に考えていきます。
皆さんが持っている国語教科書の最後のページを見てみてください。たくさんの人の名前がずらりと並んでいます。一冊の本を作るために、こんなにもたくさんの人の手が掛かっているんです。
山本さんは、4年後に4年間使われる事を見据えながら作るので、とても難しいと話されていました。
②教材探し
図書館や書店で教材や資料を探したり、取材や執筆依頼などをします。
このときに大切なのは、あらゆるところにアンテナを広げ、数千・数万の文献にあたり、子どもに伝えたい一遍を選ぶことだそうです。
様々なものに興味を持つことは、どの世界でも大切ですが、教科書作りにおいては特に必要な力です。
③教材審議(編集会議)
教材となる作品を探したら、次に行うのは、その作品が子どもたちにふさわしい文章内容や文章量であるか、文章の表現は正しいのかなど、検討し合います。
②と③の作業を何度も何度も繰り返して、より国語教科書や学習指導要領の方向性に寄り添っている作品を選び抜きます。
何年も教科書に載っている作品は、編集会議で提案された新しい作品を抑え、やっぱり選ばれてしまう素晴らしい作品だという証拠です。
④入稿・校正・校了・印刷・製本
選び抜いた作品を構成し、編集していきます。そして、文字や文章、色の校正をしたり、内容の事実調査をしたりします。
ここは最も神経を使う作業になるそうです。完成してからミスを発見してしまうと、ミスの訂正をするために文部科学省に訂正の申請を出さなければならないからです。申請の許可が下りてからようやく訂正をすることができます。句点を読点に変えるなどの小さなミスでも申請をしなければならないので、編集者たちは、ミスをしないように意識を注ぐのです。
校了では、その印として、編集長の山本さんが判を押すのだそうです。その時は、編集者一同、緊張がほどけ、比喩ではなく本当に歓声があがるそうです。
教科書作りに比べたら責任や影響力のレベルは違うかもしれませんが、私も学生広報スタッフの活動で学内情報冊子「M*arch」を制作していたので、気持ちが分かる気がします。
最後に印刷・製本をして、本としての国語教科書は完成します。
それから、3年目に検定に合格し、4年目に自治体に選ばれて、ようやく教科書として販売する事ができます!
講演の初めに4年かけて教科書を作ると聞いた時は、とても長いと感じましたが、様々な工程を聞いた後は、むしろ短いと感じてしまいました。
◆こだわりの教科書
教科書は内容だけではなく、インクや紙なども日々進化しています。
例えば、環境に配慮した植物油インクを使ったり、手書きの硬筆に近い光村教科書体を開発したりしています。
太陽の照り返しを抑えた、少し黄色味がかった紙や軽量化を図った紙などの開発もしています。
色弱の子どもたちのために、グラフの色一つとっても、専門の人にアドバイスをもらいながら、分かりやすいように作っていきます。
子どもの想像力を損なわないようなイラストをデザイナーやイラストレーターとともに考えます。
教科書を使っていたあの頃は、そのような細かなところに気づかないまま、使っていました。全ての子どもたちのために一冊の教科書を作るためにここまで考え抜かれているのだと感じました。
📖最後に
今回の講演で国語教科書の裏を見ることができました。
基本的にどの分野や企業においても、その裏を見ることはなかなかありません。その中でも教科書はなおさらではないでしょうか。
実際に編集長の山本さんのお話を聞く事ができて、本当に良かったです。今までとは違った視点で教科書を読むと、面白い気づきがきっとあるはずです。
山本さんは、講演の中で繰り返し「変える勇気、変えない心」と話されていました。
私は、「凝り固まったやり方を変え、常に進化し続けること」と、「自分が思っている芯や軸は絶対にぶらさないこと」なのだと解釈しました。
このブログの始めに、なぜ国語教科書に載っている作品を大人になった今でも覚えているのかと問いました。その答えは「変える勇気と変えない心」にあると私は思います。「変える勇気と変えない心」を持った編集者たちが全力で作っているからこそ、その思いが伝わり、いつまでも私たちの心に深く残っているのです。