【活躍する卒業生36】流しの洋裁人 原田陽子さん(生活環境学科2007年卒)
2023/10/27
織物の産地である山梨県富士吉田市を拠点に日本でただ一人、「流しの洋裁人」を名乗る原田さん。全国どこにでも出向いてミシンと生地をその場で広げて服を作り出す活動には、食品ロスならぬ服ロスへの警鐘と、服作りを知る人だからこその愛が込められています。
「昔はミシンを踏む姿が生活の中にあったのに、今では服は機械が作ると思っている人さえいる。背景に思いを巡らせば、服が嘘みたいな安値で売られているのがおかしいと感じるし、服を雑に扱うことも躊躇するはず」。
デニムの産地・岡山県出身。小学生のころから服作りが得意で、「東京の服飾専門学校に進みたかった」。武庫女への進学は親の許容するエリアとの折衷案でしたが、「服飾を科学的に学べて資格もいろいろ取れる」学科の学びは魅力的で、「原田は大学に住んでいる、と言われるくらい、朝から夜まで、休日も大学にいましたね。文化祭のファッションショーにも毎年打ち込み、課題制作や課外活動を通して一生ものの友だちがたくさんできました」と振り返ります。
営業企画として就職したアパレルメーカーは海外の安い労働力に頼る「ファストファッション」が主流で、「自分が目指したいモノづくりとは違う」という思いがありました。会社から「一人前」の目安として提示された目標を達成した後、「生き方を模索するため」母校に戻り、助手として働きながら専門学校(夜間土日)や通信制大学院で学ぶ道へ。
転機は2014年。他大学の文化祭で洋裁の屋台を出店したところ、1着1万円近くするセミオーダーの服が次々に売れました。これが「流し」のデビューとなり、以後、折り畳み式の屋台を持って各地で移動式のセミオーダー服屋を開くように。当初は大学講師と兼業したり、都内で流し一本で生活したり。紆余曲折の末、富士吉田市に落ち着き、2020年から再び流し一本の生活に。出産やコロナ禍で活動は制約を受けましたが、関東を中心にオーダーは引きも切らず。昨年、二人目の子どもを出産し、子育てとの両立で多忙な日々を送っています。
さらに、全国に残る機神信仰を記録するフィールドワーク研究にも取り組んでいます。クラウドファンディングで支援を呼びかけたところ、武庫女時代の恩師や友人からも続々と手が上がり、2週間で目標を達成。ネクストゴールに挑戦中です。「夢は全国各地に拠点をおいて移動しながら洋裁の受注を取ること」という原田さんにとって、機神信仰研究はまさにライフワーク。「人生を総動員してやり遂げたい」と力を込めました。
支援は学術系クラウドファンディングサイト「アカデミスト」へ。