生活美学研究所設立30周年を記念し、生活美学叢書「生活美学と多田道太郎」をwebで公開しています。
2021/02/03
生活の端々に宿る美を見つめ、「生活美学」の領域を拓いたフランス文学者・多田道太郎先生(1924~2007年)が初代所長を務めた武庫川女子大学の「生活美学研究所」は2020年度、30周年を迎えました。これを記念し、多田先生のめざした原点に立ち返る生活美学叢書「生活美学と多田道太郎」を生活美学研究所ホームページで公開しています。
発行にあたり、1992年6月20日に多田先生が講演した「生活美学って何?!」を、録音テープから文章化しました。家政学への関心や女子大生の変化について語り、多田先生の率直な人柄が伝わる貴重な資料となっています。
講演の中で、多田先生の視線は常に「大衆」に注がれます。女子大学について「大衆をなるべく文化的な『お姫様』に近づけていこうとする作業が、今日の女子大学である」と語り、「(女子大が)新しい姫大衆を作りつつある」と独特のユーモアを交えて概観。大学院に進む女子学生について「私たち男の老人が見たレベルで、実に感覚が良い。ここが面白いという勘の働かせ方はすごいものがある」とたたえ、「お姫様は最終的には自分の芸術、自分の手仕事を持たないといけない」と、生活美学の担い手として、女性に期待を寄せています。
また、1990年10月29日、第12回繊維学会の記念講演をもとに多田先生が執筆した「風俗学とテクノロジー」を掲載。武庫川女子大学生活美学研究所の創設について「暮らしの中に持ち込まれた美学を研究する。これが将来どのようになっていくか、私の学問の興味であり人生の賭でもある」と語っています。1946年から1994年に発表された多田先生の著作を、人生年表に重ねた巻末の目録からも、学問領域を限定しない、幅広い好奇心と独特の世界観がうかがえます。
生活美学研究所では毎年、テーマを設定し、定例研究会やクリエイティブサロン等で学域を超えた研究を展開しています。叢書では、4人の研究員が書き下ろした「生活美学の射程」のほか、30年にわたる年間テーマから、7人の研究員の論稿を収録。著名人が登壇した「クリエイティブサロン」から、惣菜や洋菓子、遊びなど生活にまつわるユニークな講演録も掲載しています。