◇活躍する卒業生23◇食物栄養科学部助教 博士(食物栄養学) 中村衣里さん(生活環境学研究科食物栄養学専攻修士課程2013年3月修了)
2022/08/08
日本食品化学学会の学術大会で第24回奨励賞を受賞した中村衣里助教は母子2代の武庫女OG。様々な食品の機能性を解き明かし、高い評価を得ている中村助教に今回の受賞と、研究者としての思いなどを聞きました。
受賞研究では、ダイエットや筋トレ等で人気のプロテインに着目しました。一般に大豆由来のソイプロテインより牛乳由来のホエイプロテインの方が必須アミノ酸が多く、吸収も早いと言われています。ただ、消化吸収後は血中のアミノ酸濃度を一定に保とうとする恒常性が働くため、血液測定では効果を正確に測定できず、「筋肉量が増えた」という外形面での変化が指標になっていました。
これに対し、本学の特許技術である「ラット門脈カテーテル留置法」では小腸と肝臓の間にある門脈から血液を直接採取。胃から入れたプロテインが小腸で消化吸収された直後に、門脈血中のアミノ酸濃度がどれくらい上がっているかを観察することができます。中村助教はこの方法で、プロテイン飲料の消化吸収性の違いを科学的に証明し、今回の受賞となりました。
母親が武庫川女子大学の短大卒であるため、幼いころから「武庫女」に親しみを感じていたという中村助教。栄養について学ぼうと大学に入学した当時は「研究者は選択肢になかった」と振り返ります。「ラット門脈カテーテル留置法」の開発者である松浦寿喜教授の研究室に入ったことで、未来図は大きく変わりました。
同研究室では、主に食品の機能性について試験管内実験でメカニズムを明らかにし、動物実験と人への臨床試験で検証を重ねるため、研究員は高い手技と正確なデータ収集を求められます。手先が器用で「パッチワークや刺しゅうなど手芸が趣味」という中村助教は、ラットにカテーテルを挿入留置する手技が群を抜いてうまかったことから松浦教授に見込まれ、大学院に進学。「大人数でやる実験実習は苦手だったけど、没頭できる研究室での実験が楽しくて」と、すっかり“研究の虫”に。大学時代から取り組んだ抹茶の機能性に関する研究で博士号を取得しました。
自身の強みは「妥協せず、とことんやるところ」。結果が出なくても黙々と実験を続けるひたむきさが精度の高いデータにつながり、信頼性のある研究成果を生み出します。現在は助教として実習や実験の授業を受け持ちますが、未来図はまだ途上です。「武庫女に来なければ研究者の今はなかった。最先端の機器や設備にも助けられました。将来のことはわからないけれど、研究者であり続けたい」と話しています。