建築学研究科の大学院生が甲子園会館の魅力を伝える展示会「甲子園会館に学ぶ/で学ぶ」を兵庫県立美術館で開催しています
2022/09/22
武庫川女子大学建築学部の学び舎である「甲子園会館」の建築としての魅力を建築学研究科の大学院生30人が徹底調査し、図面や模型、CGを駆使して表現した展示会「甲子園会館に学ぶ/で学ぶ」が、9月27日まで兵庫県立美術館で開催されています。
天井に達するほどの巨大な模造紙に描かれたのは、甲子園会館の内部や外壁に施された多彩な装飾を学生が正確に書き写した装飾原寸図。地階から4階までの平面図、東西南北それぞれの立面図、南北の断面図には、現在の用途と、ホテル時代の用途が図入りで併記されています。窓や天井の寸法、カーペット、ボーダータイル、日華石など材料を示した矩計図。50分の1の縮尺の模型は、建物全体を正確に再現しています。さらに、甲子園ホテル時代の客室を、現状やホテル時代の写真から推測してCGで再現。シングルルーム2タイプ、ツインルーム、和洋室のスイートルームの4室をめぐる動画を上映しています。
甲子園会館は1930年に竣工した旧甲子園ホテルで、フランク・ロイド・ライトの愛弟子である遠藤新が設計し、同じくライトが手掛けた東の帝国ホテルと並び称された名建築。阪神間モダニズムを代表するホテルとして多くのセレブリティをもてなしましたが、戦争のためホテルとしてはわずか14年で幕を閉じました。1965年に武庫川学院が国から払い下げを受けて教育施設「甲子園会館」となり、学舎として活用しています。2009年に国の登録有形文化財に登録されています。
建築物の設計、施工には、平面図や立面図、断面図等に加え、寸法や素材を詳しく示した詳細図等が欠かせませんが、甲子園会館は建設前の基本設計図や施工図の一部が断片的に残るものの、変更や改修により現状と合致しない部分も多く、竣工当時の正確な姿を知る手がかりがほとんどありませんでした。竣工から90年を超え、2022年から屋根の葺き替えを含む大規模改修を実施中。日頃は見ることができない棟飾り等も屋根から降ろして解体することから、「この機会に建物の詳細を資料に残そう」と、大学院建築学研究科修士課程の授業(実務経験にカウントされる「建築設計実務」及び「建築保存修復インターンシップ」)で取り組みました。
現在の甲子園会館を基準に行った調査により、様々なことが明らかになってきました。帝国ホテルは「インチ・フィート」を尺度に設計されていますが、甲子園会館をこの尺度で計測するとサイズが合わず、メートル法でも合致しないことから、日本式の「尺貫法」で設計、施工されていたことが明らかになりました。また、装飾には1930年当時、世界的に流行し始めていたアール・デコの影響が色濃くみられます。展示では、アメリカのミッドウェイガーデンや、ライトが日本で手掛けた山邑邸などと比較しつつ、旧甲子園ホテルを日本における数少ないアール・デコ様式の傑作のひとつとして位置づけ、新たな価値を提示します。
圧巻の装飾原寸図は西ホールの天井飾りや窓ガラス、シャンデリア、打出の小づちや水玉を表現した外壁のレリーフなど13種。屋上のレリーフの装飾原寸図を手掛けた修士2年、馬場裕実子さんは「実際に紙を当ててトレースしたり、メジャーで測ったりすることでスケール感をつかむことができ、細かな意匠に気づくことができました。手描きの迫力と素材感や奥行きを感じ取ってもらいたい」と話しています。
家族で見学に来た女性は「甲子園会館は遠くから見たことがありますが、細かな装飾など美術的な魅力は今回の展示で初めて気づいたことが多く、興味深く見ました。原寸大の図は大きさもよりリアルに感じられますね」と話していました。