トルコ・シリア大地震から1年を機に、建築学部が歴史都市アンタキヤの町並み復興を考える公開セミナーを開催しました。
2024/03/19
2023年2月に発生したトルコ南東部を震源とするトルコ・シリア大地震から1年が経過したのを機に3月16日、上甲子園キャンパス甲子園会館で建築学部による公開セミナー「トルコ南東部を震源とする地震から1年 歴史都市アンタキヤの町並み復興を考える」が開かれました。トルコ・バフチェシヒル大学から建築デザイン学部長のムラツ・ドゥンダル教授も来日し、基調講演を行いました。
建築学部では1年前の発災直後に教員3人が神戸市職員2人とともにトルコに入り、被災全域の状況を確認しました。その後、文化庁から令和5年度緊急的文化遺産保護国際貢献事業「トルコ共和国における歴史的市街地の復興に関する国際貢献事業」を受託し、調査・研究を進めています。とりわけ建築学の立場から、トルコ最南端のハタイ県にある歴史的都市・アンタキヤ旧市街の町並みについて、復興案のベースとなる意見書の作成を目指しており、今年2月23日から3月1日まで、建築学科の柳沢和彦教授と鳥巣茂樹教授が再度、アンタキヤを現地調査しました。
アンタキヤはその歴史ゆえにモスクや教会など様々な宗教施設があり、旧市街地では中央に水路が流れる路地や、中庭を囲むように部屋が構成された伝統的家屋などが独特の町並みを作り出していました。こうした伝統的町並みが2000年ごろから観光地として脚光を浴びていましたが、今回の地震で壊滅的被害を受けました。
基調講演でムラツ教授はアンタキヤの歴史的背景を紹介したうえで、震災前、家屋が密集していた元の町並みと、がれきが撤去され、空間がめだつ現在を定点比較しながら、被害と現状を報告しました。第2部では柳沢教授と鳥巣教授が再調査の報告と復興への提言を行いました。
柳沢教授は建築設計の立場から、復興にあたっては、アンタキヤの町並みの伝統やアイデンティティを継承しつつ、地震に強い街づくりを目指すことを提唱。伝統的家屋は一階は石造、二階は木造で作られていたことから、「再建時には安易に小規模なRC造を増やさず、地元の建築家の意見を取り入れて、石や木や瓦といった伝統的材料を活かし、スケール感を維持する必要がある」と呼び掛けました。また、川や山のある景観、ミナレットやドームが空に突き出すスカイラインの魅力を活かし、歩いて回れる観光都市を目指すことなど9項目の提言をしました。
鳥巣教授はアンタキヤの地形の特色として、「3つのプレートがぶつかる地点で、古くから地震が多い一方、土地は肥沃で交通の要所であるという二面性がある」と表現。建築構造設計の立場から、文化財に登録された建物は一定の保護がなされているが、それ以外の歴史的建造物にも意義があり、被害要因を明らかにして耐震性の目標を設定すべきと提言しました。さらに、旧市街の町屋について、「石と石の付着部が弱い。モルタルの強度を上げる必要もある」としたうえで、「伝統的構法が必ずしも耐震性を有さないわけではなく、設計によっては倒壊を防ぐことはもとより、損傷を押さえることも可能である」と指摘。基礎工事や鉄筋を入れる等の改善が必要と提言しました。
会場には設計事務所など建築に関心のある人が多く詰めかけ、オンライン含む約100人の参加がありました。会場からは「文化財登録された家屋の再建に国等のサポートはあるのか」「伝統的町並みと安全性とどちらを優先すべきか」「復興計画に防災の考え方はあるのか」などの質問が相次ぎました。