【先生の研究力#5】 松永哲郎教授(食物栄養学科) ミクロな細胞の世界から白ご飯の食べ方まで。多様な切り口で「生命の恒常性と食」にアプローチする。
2026/06/16
「基礎研究もやりたいし、社会還元に直結する研究もしたい。“欲張り”なんです」と、穏やかな笑顔で語る。
大学時代、工学部で「酵母の細胞周期」を学び、大学院では「人の心拍変動と遺伝子多型」の解析に取り組んだ。ポスドク時代は農学部で「胃運動と食生活」や「脂肪細胞の炎症」、前任の教育大学では「食育」や糖尿病に関わる「膵β細胞の糖毒性」の研究に着手した。目まぐるしい変遷に見えるが、「生体の恒常性(身体のバランス)がどのように維持されているか。そこに食がどう関わっているか」というテーマは通底している。
日常のふとした疑問が研究の手がかりになる。たとえば日本の食材について解説した江戸時代の書物「本朝食鑑」に着想を得た「かつおだし」の研究。だしが胃運動のリズムを整え、満腹感を持続させる効果を科学的に実証した。
直近の研究は「ごはんを食べるとき、飲み物を一緒に取ると血糖値や胃排出はどう変わるか」という素朴な疑問から始まった。白米だけ食べた場合と、白米を水分と同時に摂取した場合で食後の呼気ガスに含まれる二酸化炭素の量を測定し、消化スピードを比べたところ、白米と水分を同時に摂取した方が消化のスピードは早く、血糖値の上昇も早くなった。食後血糖の急激な上昇は、血管や膵臓に大きな負荷をかける。検証を重ね、白米の直後に水分を飲むと、デンプンの消化物の一部が液体とともに早く十二指腸に流れるため、食後血糖値が白米単独より上昇する仕組みを突き止めた。
「ごはんを食べるとき、お茶を飲んではいけないの?」と思ってしまうが、水分摂取を食事の直後ではなく、十数分程度前後にずらす、あるいは量を50ml程度に減らすといった工夫で血糖値の上昇を緩やかにできるという。「食べる順番やちょっとした工夫でリスクが下がる。我慢するのではなく、毎日の食卓で誰もが実践できる知恵を見出したい」と松永教授。
研究室では学生たちが膵β細胞の糖毒性を改善する食品を探索したり、食品の抗炎症効果を探ったり。「食や栄養学は身近でありながら、複雑で難解な研究対象です。難解だからこそ、科学的な立証で一つ一つ紐解いていく面白さがある。社会実装しやすく、波及効果も大きい」。一方で未解明の領域が多く、基礎研究が欠かせない。「両方できるのが他の分野にない魅力です」と力を込めた。



