【先生の研究力#7】食物栄養学科 石橋豊隆教授 エピゲノムのメカニズム解明を目指し、「食」で新境地に挑む。
2026/06/18
日本の大学院を修了後、ほとんどの期間を海外で過ごしてきた。最初に飛び込んだのはカナダ・ビクトリア大学。さらにアメリカ・カリフォルニア大学バークレー校で研究員を務め、2013年から香港科技大学で助教、准教授を歴任。2026年4月に本学に着任した。
研究テーマは「エピゲノム」のメカニズム解明だ。エピゲノムとは、遺伝子の塩基配列を変えることなく、DNAに巻き付いているヌクレオソーム、あるいはヌクレオソームを構成するヒストン(タンパク質の一種)の修飾(部分変化)により遺伝子の働きが変わることを指す。
変化を促すのは環境だ。同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも違いが出るのは、環境によってヒストンのアセチル化等により遺伝子の発現パターンが変わるからだ。
今、力を入れているのは精子形成に関わる食品の探索。微小な精子形成ではヒストンがプロタミンというたんぱく質にダイナミックに置き換わる。加齢等の影響でこの置き換わりが精子の活力低下を引き起こす場合がある。ならば、精子の活力を高める変化を起こせないか。近年の研究で、食によってヒストンの状態が変わることがわかってきた。食で精子形成が制御できれば、不妊や少子化の福音になりえる。
「研究は、必ずできるという信念がないと絶対にうまくいかない。なぜ?と考え、できるまでやる。忍耐が必要です」。
その言葉に実感がこもるのは、カリフォルニア大学の研究員時代、研究成果を出せず、プレッシャーに苦しんだ経験があるからだ。「だからこそ、4年後、ヌクレオソームの転写制御に関する論文が学術誌『Cell』に掲載されたときは達成感がありました」。
高校時代、テレビで遺伝子組み換えの特集を見てバイオテクノロジーに興味を持った。大学院で植物のDNA修復を研究。学会で耳にした「ヒストン」に惹かれて生化学の道に進み、今また20年ぶりの日本で「食」に照準を当てる。「食は初めての分野だが、エピゲノム制御に可能性がある。チャレンジしたい」。
石橋研究室では、試験管内でDNAやヒストンタンパク質を人工的に再構成する分子生物学的なアプローチから、マウスを用いて特定の栄養素がどのように遺伝子のスイッチを切り替えるかを検証する生体実験まで、多角的な基礎研究を展開していく予定だ。
「少し負荷がかかるくらいのテーマに挑むことで研究力は磨かれる。その経験は将来、どんな職業についたとしてもきっと力になる。学生にはぜひチャレンジしてほしい」と呼びかけた。


