【先生の研究力#13】食創造科学科 本田智巳講師 食を基盤に、社会課題を考える教育プログラムを開発。
2026/06/25
調理学をフィールドに、人間の食の営みを環境や社会とのかかわりから捉える。研究テーマは、「料理の構造化とレシピ設計を通じた教育プログラムの開発」。例えば、味噌汁の材料は、味噌、だし、具材。旬を意識し、地元でとれる具材にすれば、環境負荷が減る。どんな食材を選べば、持続可能な社会につながるか。誰が食べるのか、どのような場面で食べるのかによっても、レシピの設計は変わる。食事制限のある人が食べるのか、健康な人が食べるのか。味わう季節や時間帯、シチュエーションで望ましい味もあるはずだ。食を切り口に、ほかの学びにつなげる。「味噌汁とシステムデザイン」「日本食と言語教育、異文化理解」など、テーマは無限に広がる。
社会人向けワークショップでは、味噌を選び、麩や乾燥野菜、海藻を混ぜ込み、一口大に丸めた「味噌玉」を作る。お湯を注げば、熱々の一杯が味わえる。味噌の原料は、大豆と塩、麹。味噌汁は、和食を代表する料理でありながら、その原料である大豆の多くを輸入に頼っており、ワークショップでは、こうした普段何気なく食べている料理の背景にある現実を意識してもらう狙いがある。「味噌汁は、日本の食卓で広く親しまれてきた身近な料理。食を学習のプラットフォームと捉え、料理を手段に教育プログラムを作っていきたい」。
2026年5月には、本学協定校のイースタン・ワシントン大学(アメリカ・ワシントン州)で日本の食文化をテーマに講義した。日本の献立構成である「一汁三菜」を、単なる食事形式ではなく、栄養、彩り、食感、香り、温度、季節感のバランスを設計する日本のフードデザインとして紹介した。さらに、アメリカの定番メニュー「マカロニチーズ」をもとに、一汁三菜の考え方を応用する活動も行った。学生たちからは、日本食を文化理解の入り口として捉える感想や、自分の食生活に応用したいという声も寄せられた。
また、日本語を学ぶアメリカ人を対象に、スーパーで購入したベーコンやマッシュルーム、トマト、ジャガイモ、ガーリックパウダーで味噌汁を作るワークショップも開いた。「味噌とだしが、海外の食材とも合い、味噌汁が持つ可能性に改めて気づいた。味噌汁は、味噌、だし、具材という基本構造を持ちながら、具材の選び方によって自由に展開できる料理。日本食をそのまま再現するだけでなく、現地の食材や食文化と結びつけながら学べる点に、教育的な面白さがあると感じている」と話す。
ユネスコ無形文化遺産である和食、海外の人を魅了する日本の食文化。一方で、食料自給率が低い日本はフードマイレージ(食料の輸送量と輸送距離を掛け合わせた指標)が大きい国の一つでもある。温室効果ガスの削減や食品ロスの低減など、食をめぐる課題は身近な食卓ともつながっている。教育を機に、普段の料理や食材選択の背景にある社会課題に気づくことができれば、人々の行動は少しずつ変わっていく。食を学びの入り口にすることで、持続可能な社会に向けた考え方と行動を育てていく。



