活躍する卒業生#49 近畿大学総合社会学部 環境・まちづくり系専攻 田中晃代教授(英米文学科1985年卒)
2025/03/14
「武庫女は青春のほとんどを過ごした場所」と振り返る”中高大フルコース”の卒業生。「もともと詩人や小説家に憧れがあり、大学では英米文学科でT・S・エリオットの研究に打ち込みました」という文系人間がなぜ、都市計画・まちづくりの研究者に?
「卒業後の初職がハウジング会社の事務だったんです。建築の専門的な知識が不足しているのを痛感して、別の大学の建築学科に編入してから建築や都市に目覚めました。研究者としては遅咲きなんです」。二度目の卒業後、設計事務所で働きながら大学院で環境工学を学び、博士(工学)を取得しました。
大学時代、兵庫県職員の父に付き添って見た開発中のニュータウンの印象が、潜在意識にありました。とはいえ、20代半ばでの「理系転換」は、数学や物理のハードルが高そうです。「高校時代の数学の先生がものすごく分かりやすく、かつ怖かった。おかげで微分積分まで一通りできたので助かりました」。数学以上に、武庫女では中高大を通して「人に対する姿勢を叩き込まれた」と振り返ります。「斜に構えず、まっすぐに対象に向き合う誠実さのようなものですね」。武庫女の話になると、母校愛が止まりません。
そんな母校を久しぶりに訪れたのは、近鉄大阪線沿線のまちづくりを考える東大阪市の助成金事業で。高架化が切望される近鉄大阪線沿いの将来像を探るため、高架化に伴い誕生した武庫女ステーションキャンパス(MSC)を視察しました。何度か仕事をともにした三好庸隆教授と調査の過程で偶然再会し、聞き取りを依頼。報告書では「高架下利用と周辺環境とが統一感を持ったデザインで統一されている。駅舎と大学(学校教育館や看護科学館など飛び地の建物)が近接することで、(駅高架下を利用した)ステーションキャンパスの発想が生まれた」と、写真や図入りで詳細に考察しています。
この助成金事業にはゼミ生も参加しました。東大阪市の対象エリアでグループで空き家のポイントデータを集め、ヒートマップに落とし込むと「旧集落周縁部に空き家が多い」ことが浮き彫りに。「研究にエビデンスは必須。学生の卒論もテーマは自由に設定させますが、統計的、定性的なデータで仮説を立証する方法論はしっかり指導します」と田中教授。
自身もフィールドワークを重視し、妙見山のふもとで古民家再生に携わったり、姫路の離島で看取り文化を調査したり、実践と研究を行き来してきました。専門性を買われ、大阪、奈良、兵庫、三重で数えきれない自治体のまちづくりに携わりますが、「人の暮らしをベースにしているので、私の研究のフィールドはおおむね徒歩圏内。それ以上には広がらないんです」と明快です。
「これから必要なまちづくり」について尋ねると、「私はぽつんと一軒家もあっていいし、あるべきだと思う。立地適正化計画でコンパクトな街を目指す動きがありますが、自然と人が共生できる境界線の意味を、歴史に照らして考えなければならないと思うんです」ときっぱり。研究者の顔とともに、武庫女生らしい「まっすぐさ」が垣間見えました。