活躍する卒業生#50 公立小学校講師 伊奈垣圭映さん(短期大学初等教育科1982年卒)「第11回白川静漢字教育賞」において最優秀賞を受賞
2025/05/08
大阪市出身の華僑5世。旧名、梁佳惠。短期大学で小学校教諭の免許を取得。1997年から、大阪府東大阪市の小学校で日本語指導担当になったことが、出版のきっかけにつながる。自身のルーツや、教育実践を基にした講演活動も行う。
小・中学校で習う常用漢字と中国の簡体字、台湾で使われている繁体字を並べた『ちがいがわかる対照表 日本の漢字 中国の漢字』を2015年に出版し、本を使った漢字教育実践が認められ、2024年度の「第11回白川静漢字教育賞」(一般の部)で最優秀賞に選ばれました。同賞は、福井県出身で漢字文化の振興に寄与した白川静博士を顕彰するために創設されました。「小さな実践が、栄誉ある賞で評価され、感無量です」と喜びを語ります。
1982年3月に短期大学を卒業。国籍条項のため、教員採用試験の受験は叶いませんでしたが、神戸中華同文学校で教師の道へ。出産でいったん教職を離れたものの、1997年から中国人の子どもが増えつつあった大阪府東大阪市の小学校で、日本語指導担当教員になります。中国語が話せ、小学校教諭の免許を持っていたことが理由でした。
子どもたちに日本語を教える中で、自身の過去を見つめることになります。小学校低学年まで通った大阪中華学校は、繁体字での学習。その後に過ごした神戸中華同文学校では、簡体字で学びました。「中国語の漢字テストで、日本の漢字が交じると減点。がっかりしました」。1964年に中国政府が公式に簡体字を採用。「簡体字と繁体字の対照表はありましたが、日本の漢字まで加えたものは、なかった。あったらいいのに」。
そんな体験から、日本語を学ぶ児童のため、日中の漢字対照表を手作りのプリントにまとめます。日本の小学校で習う漢字を、母国の漢字と一緒に学んでほしいという思いがありました。「ほしい人がいると思う」という友人の勧めで、自費出版を決意します。清の康熙帝が編纂させた漢字字典『康煕字典』や中国最古の漢字字典とされる『説文解字(せつもんかいじ)』にあたり、出版までに字体の変遷を徹底的に調べました。これら2冊の希少本は、武庫川女子大学図書館に所蔵されており、運命を感じたそうです。2015年に初版500冊を出してから、神戸新聞で紹介されたり、丸善ジュンク堂書店で取り扱われたりして広がりました。2019年に新学習指導要領にも対応した第2版も出し、発行累計1万部を数えます。
一見順調な道のりに見えますが、2018年には出版社と流通会社が倒産。翌年に出版社を自力で設立し、何とか出版を続けてきたと言います。「この本を役に立つ場所、必要とする人に届けたい」という信念で、全国の図書館や夜間中学校、日本語教室に寄贈しています。
初版から10年。巻末に漢字の音読みと訓読み、発音記号の拼音と注音、総画数から漢字が検索できる索引を付け、日本語学習者だけでなく、中国語学習者にとっても、便利な字典になりました。伊奈垣さんは、「次は、中国の常用漢字を網羅した別冊づくりに挑みたい」と意気込みます。『ちがいがわかる対照表 日本の漢字 中国の漢字』は、2000円(税別)。問い合わせは、お近くの書店へ。附属図書館にも所蔵されています。