生活環境学科の西山雄大講師の著書『専売建築と妻木頼黄―「標準化」の思想と実践』が「大学出版部協会フェア2025」に出展されています。
2025/06/07
生活環境学科の西山雄大講師の著書『専売建築と妻木頼黄――「標準化」の思想と実践』(九州大学出版会)が出版されました。7月まで紀伊国屋書店新宿本店3階アカデミックラウンジで開かれている「大学出版部協会フェア2025」(一般社団法人大学出版部協会主催)に出展中です。「新しい明治建築の見方が提示できれば」と話す西山講師に聞きました。
歴史的建造物は、しばしば著名な建築家に紐づけて価値が語られますが、西山講師は、明治期の日本で煙草や塩の専売制度を通して建築の標準化、規格化が進んだことに着目。明治を代表する建築家の一人に挙げられつつも、辰野金吾に対抗した存在という一面的な評価を受け続けていた妻木頼黄(つまぎ・よりなか)に光を当てて、日本の建築が近代化する過程を追いました。
妻木はアメリカ・コーネル大学で学んだ異色の経歴を持ち、大蔵省の官僚として多くの官庁建築を手がけました。代表作に旧横浜税関新湊埠頭倉庫(現在の横浜赤レンガ倉庫)などがあります。
西山講師は「明治期には鉄道の駅舎や電信局など、全国各地で建物の標準化が進みました。大きくて立派な建築物を称える旧来の価値観だけでなく、 “ネットワークとしての建築”が生まれてきたのが近代の特徴。それを実現するだけの人材や技術力が育ってきたのもこの時期でした」と話します。
日清戦争後に導入された、煙草と塩の専売制度を支えた施設群は、妻木が指揮を執りました。「妻木らが大蔵省営繕組織の本部で設計図を引き、それぞれの土地の事情に合わせてサイズ等を変更した様子がうかがえます。時には現地に出向き、施工を担う民間業者を監督することで、同時期に一斉に竣工する“建築の標準化“が実現しました」。短期間で全国各地に同質な施設を整備した画期的な業績ですが、妻木の作品としては特記されていません。
煙草専売に続き、日露戦争中に公布、施行された塩専売の施設は瀬戸内海沿岸に集中し、兵庫県にも現存します。西山講師は赤穂塩務局三等庁舎や網干出張所六等庁舎など現存する各地の塩の専売所を調査。洋館風の外観に対し、内部の構造は日本の伝統的な建築方法で作られたものが多いことが分かり、「専売制を急ぐ国、大蔵官僚として存在感を増す妻木、工事を請け負う現場などそれぞれの思惑を包含しながら組織の活動として建築群ができあがった」と考察。2020年から22年から順次、論文にまとめたものに追加調査の成果や修正を加えて一冊の本にまとめました。
「JIS規格など現在のような工業規格やプレハブ技術のない時代に、全国で同質なものを一斉に作り上げるには、中央と地域の様々な人の協働があったことが分かります。建物が出来上がる過程を知ることは、歴史的建造物の保全にも欠かせない視点。学生たちには、建物の価値がどこにあるかを見極める一助としてこの研究を伝えたい」と話しています。