【先生の研究力#3】食創造科学科 吉田徹教授(食品衛生学研究室) 生物に学ぶ夢の保存法。常温ガラス化でサステナブルな社会を目指す
2026/06/05
「なぜ現代の科学は創り出すばかりに忙しく、維持・保存に目を向けないんだろう」。
そんなもどかしさが研究の原動力になった。
学生のころから生物資源の保存はもちろん、古い建築を見ても「維持・保存する方法」が気になった。大学では基礎生物学の道へ。しかし、「創り出す」ことに熱心な風潮に飽き足らず、老年科学で知られる南カリフォルニア大学に移籍。分子生物学の手法で老化のメカニズムの解明に力を注ぎ、博士号も取得した。本学では、これまでの経験を活かして、食糧資源保存技術の開発と食品ロスの実態調査という2軸で、研究活動に取り組む。
物質の状態には、気体、液体、固体に次ぐ第4の状態として「ガラス化」がある。食品を「冷凍」すると、結晶化によって組織が壊れ、風味や栄養が損なわれるが、ガラス化は、この「結晶化」を経ずに固化した状態を指す。組織が壊れないから常温で何年でも保存でき、しかも水をかけると元通りに復活する。
「在庫調整がしやすく、食品ロスが防げる。たとえ宇宙でも風味が損なわれない栄養のあるものが食べられる。まさに夢の保存方法です」。
クマムシやネムリユスリカなど、乾眠状態(クリプトビオシス)で生命を維持する極限環境生物が持つガラス化のメカニズムを食品保存に応用できないか。
研究素材に選んだのは塩水湖のプランクトンの一種、アルテミアだ。アルテミアの耐久卵は、湖面が氷結する冬季は乾眠状態で維持され、春先に氷が溶けて再び海水に洗われると何事もなかったかのように孵化してくる。
そのカギは、トレハロースという特殊な糖だ。トレハロースは水分子と置き換わったり、ガラス化を促進させる効果が知られている。調べてみると、アルテミアの耐久卵はトレハロースを乾燥重量で15%程度ため込んでいることが分かった。熱分析装置では、通常、凍結時は発熱側、融解時は吸熱側のピークがあるが、ガラス化の場合はベースラインのシフトのみが測定される。研究室では、さまざまな条件下でアルテミアの耐久卵がガラス化する最適条件を追究している。
食品ロスの実態調査では、地域のショッピングモールなどをフィールドに、市民アンケート調査を西宮市と共同で行なっている。またこれとは別に、大規模な全国調査も進めており、人々の地道な「もったいない」行動と夢の保存法開発を掛け合わせ、サステナブルな社会の実現を目指している。


